エレイソン・コメンツ 第264回 (2012年8月4日)
皆さんの多くがご存じのとおり,ある司教が先月スイスのエコンで開かれた聖ピオ十世会総会すなわち代表者会議から締め出されました( “As many of you know, a certain bishop was excluded from the General Chapter, or meeting of heads of the Society of St Pius X, held last month in Écône, Switzerland.” ).その決定を確認するにあたり,エレイソン・コメンツ(6月16日付け・第257回)がカトリック信仰を堕落(だらく)させる者たちは「断ち切る(たちきる)」べきという使徒聖パウロの一見殺意あるような願い(新約・ガラツィア人への手紙:第5章12節)を翻案(ほんあん)して用(もち)いたことが利用されたようです.実際には,アムブロジオ,ヒエロニモ,アウグスティノ,クリソストモ( “Ambrose, Jerome, Augustine and Chrysostom” )たちはいずれも使徒聖パウロの願いは,ユダヤ教徒化を説く者たちの命そのものでなく彼らの男性のシンボル( “Judaizers’ manhood” )を対象としたというのがガラツィア人への手紙:第5章1-12節の文意だと考えていますし,クリソストモはそれを戯れ(たわむれ,“a jest” )ととらえています.(訳注後記)
しかしながら,聖ピオ十世会総会でその戯れが真面目に利用されたと聞いたとき( “However, when I heard of what serious use was being made of the jest at the Chapter,…” ),つい下品な場面( “a naughty vision” )が私の頭に浮かんでしまったことを認めなければなりません.聖ピオ十世会の高貴な同僚たちが夜,Jack the Ripper(訳注・19世紀〈1888年8月7日-11月10日〉英国ロンドンで起き迷宮入りとなった後伝説化した凶悪殺人事件の犯人の自称)のように変装した痩身(そうしん)の英国人司教が月明かりにキラリと光る長いナイフを手に切り刻む相手を求めて木の茂(しげ)みに潜(ひそ)んでいるのではないかと警戒しながら窓から外を眺めている場面を想像したのです.親愛なる同僚の皆さん,心安らかにお眠りください.私に人殺しの野望などありません.それが本心です!
冗談はさておき,聖ピオ十世会総会は大真面目でした.総会では何が決まったのでしょうか? 先(ま)ず,総会数日後に公表された宣言が一本と( “…a Declaration, made public a few days later,…” )ローマ教皇庁と聖ピオ十世会との間の将来の合意に向けた6項目の前提条件です.この前提条件は総会直後インターネット上にリークされました( “…and six conditions for any future Rome-SSPX agreement, leaked on the Internet soon after that…” ).(多くの人たちが現在,自らの信仰と救いを聖ピオ十世会の指導に委ねていることを考えると,私はリークが不当なことではなかったと思います.)( “(given how many souls are presently entrusting their faith and their salvation to the guidance of the SSPX, I find such a leak not unreasonable)” )どなたに聞いても,総会に出席した善良な人たちが聖ピオ十世会の受け得る損害を限定的にするため最善の努力を払ったようで,私はそのことに敬意を表します( “Now all honour to the good men at the Chapter who by all accounts did their best to limit the damage,…” ).だが,もし宣言と前提条件が聖ピオ十世会の指導者全員の現時点での心構えを示すものであるなら,懸念すべき要因があると言わざるを得ません( “…but if the Declaration and conditions give us the present mind of the Society’s leaders as a whole, then there has to be cause for concern.” ).
2012年に出された宣言( “the Declaration of 2012” )について言えば,聖ピオ十世会に何が起きたかを知るには,同宣言をルフェーブル大司教 “Archbishop Lefebvre” が1974年に出された宣言(“Archbishop Lefebvre’s Declaration of 1974” )と簡単に比べるだけで十分です.同大司教は第二バチカン公会議がもたらした改革を明瞭かつ繰り返し非難しており(「リベラリズム(自由主義)とモダニズム(現代主義)から生まれたもので,それにより徹底的に毒されており,異説から始まり異説に終わっている」),その言葉ゆえに公会議派の歴代教皇の怒りを買いました( “…the Archbishop explicitly and repeatedly denounces the reformation wrought by Vatican II (“born of Liberalism and Modernism, poisoned through and through, deriving from heresy and ending in heresy”), in words that brought down upon him the wrath of the Conciliar Popes,…” ).これに対し,今回の宣言は第二バチカン公会議について「奇抜さがあり」単に「間違いじみている」組織だと一度だけ言及しているにすぎません( “…on the contrary the Declaration of 2012 refers only once to the Council with its “novelties” merely “stained with errors”,…” ).その言葉づかいは終始教皇ベネディクト16世の同意を得ているのではないかと容易に想像できるものです( “…in terms that one can easily imagine Benedict XVI underwriting from beginning to end.” ).今や聖ピオ十世会は公会議派の歴代教皇には何ら深刻な問題もないと考えているのでしょうか( “Does the SSPX now think that the Conciliar Popes represent no serious problem ?” )?
ローマ教皇庁と聖ピオ十世会との将来の合意に向けた6項目の前提条件( “…the six conditions for any future Rome-SSPX agreement, …” )について言えば,詳細な検討に値しますが,今すぐここで言えることとして聖ピオ十世会が2006年の総会後に出した両者間の実質合意には教理上の事前合意が必要との要求がまったく消え去っている点を指摘するだけで十分ですしょう( “…they deserve a detailed examination, but suffice it to say here and now that the demand made by the SSPX’s 2006 General Chapter for a doctrinal agreement prior to any practical agreement seems to have gone completely by the board.” ).聖ピオ十世会はローマ教皇庁の教理はもはやさほど重要なことではないと考えているのでしょうか( “Is it now the mind of the SSPX that the doctrine of the Romans to whom they would submit is no longer so important ?” )? 聖ピオ十世会自体がリベラリズムの魔力に屈しようというのでしょうか( “Or is the SSPX itself succumbing to the charms of Liberalism ?” )?
反対意見の観点から,私はあえて読者の皆さんに Jack the Ripper 閣下が1994年から2006年の間に出した「説教集と教理上の会議集」( “a collection of “Sermons and Doctrinal Conferences” ”)をご拝聴いただけるようお勧めします.
キリエ・エレイソン.
英国ロンドンにて.
リチャード・ウィリアムソン司教
第1パラグラフの訳注その1:
“Ambrose, Jerome, Augustine and Chrysostom” について.
・ 日本語表記(ローマ・ミサ典書〈1955年〉邦訳版にある表記より )
*司教証聖者,教会博士,聖 アムブロジオ ,(ミラノ司教)
*証聖者,司祭,教会博士,聖 ヒエロニモ ,(神学者,歴史家.聖書をラテン〈ウルガタ〉語訳に改訂)
*教会博士,証聖者,司教,聖 アウグスティノ ,(ヒッポ司教)
*司教証聖者,教会博士,金口(きんこう)聖ヨハネ( クリソストモ )(コンスタンティノポリス大司教)(金口= Golden mouth , 名説教家として雄弁だったことから)
・ 英語表記 (In English )
・ ラテン語表記 (Latine )
・「 四大ラテン教父 」
主にラテン語で著述を行った神学者(教父)のうち,アンブロジウス・ヒエロニムス・アウグスティヌス・グレゴリウス1世を指す語.カトリック用語は「教会博士」.
第1パラグラフの訳注その2:
ガラツィア人への手紙・第5章1-12節 (日本語)
ガラツィア人への手紙・第5章1-12節
キリスト信者の自由
1 *¹この自由のために,キリストは私たちを解放されたのであるから,しっかりと立って,二度と奴隷のくびきをかけられるな(5・1).
2 見よ,私パウロはあなたたちに言う.あなたたちが割礼を受けるなら,キリストは何の役にも立たなくなる.
3 また,割礼を受けようとする人ならその人は律法全体を守る義務があると,私はふたたび宣言する.
4 律法によって義とされることを望む者は,キリストから切り離され,恩寵から落とされる.
5 私たちが希望をもって正義の実現を待っているのは,霊により信仰によってである.
6 なぜなら,キリスト・イエズスにおいては,割礼を受けることも受けないこともいずれも価値がなく,*²愛によって働く信仰だけに価値がある.
7 前はよく走っていたのに,今あなたたちが真理に服従するのをはばんだのは何者か.
8 そういう思いつきは,あなたたちを呼ばれた方からのものではない.
9 少しのパンだねは練り粉全体をふくらませる.
10 あなたたちが他の考えを抱かぬように私は主によって切に望む.ともあれ,あなたたちを乱す者は,*³だれであろうとそのさばきを受けるであろう.
11 兄弟たちよ,*⁴私が今なお割礼を宣教しているなら,なぜ迫害されるのだろうか.それなら十字架のつまずきはやんだわけである.
12 あなたたちを乱す人々は*⁵自分で切ればよい(5・7-12).
(注釈)
キリスト信者の自由 (5・1-12)
*¹ 14・21から言い始めた律法のことは,いつかキリストの福音に変わる.キリストは私たちをユダヤの律法から解放し,信仰から来る自由を与えられた.
*² ほんとうの信仰は愛によって人を動かす.
*³ ユダヤ派の信者を指している.
*⁴ 割礼をまだ守らねばならないとパウロが宣教していたら,ユダヤの信者から迫害されるはずはない.
*⁵ かつて異邦人であったガラツィア人の中には,チベレ女神の信心がはやっていた.その信心家の間では,よく去勢をした.そのことの暗示らしい.つまり「あなたたちを乱すような人は,何もかも切ってしまえ」という皮肉であろう.